「あなたの目の、ちょうど裏側のあたりから、頭蓋骨の真ん中まで並んでいる骨があるの。蝶々の形をしているから胡蝶骨っていうの。六個あるのよ。真っ暗な中に蝶々が六羽並んでいるの。お琴の弦をかき鳴らすようにそれを撫でると、こんな音が出るの」
これはもう、読まないと損である。
と、書いておいて何が損なのだかよく分からないが、こんなに豊かな感じの短篇集があったとは、久々の発見である。なんども読み返したくなる文章は、時に、ぞおっと鳥肌が立つほど美しい。
「そう言えば、今まで考えてみたこともなかったが何年か前に初めて会ったとき以来、どうしたわけかこの子はちっとも大きくならないようなのだ。
「本当・・・。本当はね・・・」。隆司君はそこで言葉を切って、少しの間ためらった。その先を聞きたくないという気持が不意に榎田の中で動いたがそのときにはもう少年の血の気のない唇が動いていて、小さな、だがきっぱりした声が彼の耳に届いていた。「本当は僕はいないんだよ」
何を馬鹿な、といったことを言いかけて言葉を探しながら榎田は隆司君の哀しそうな目を見つめていたが、少し間を置いてから少年が「おじさんもでしょう」と言ったときそれこそ背筋にぞおっと鳥肌が立ったのは今度は榎田の番だった。」
古本屋で見つけたので買ってしまった。
新潮文庫版は買ってあったはずだが・・・
詩もいいけど、短編小説らしきものがけっこう好きなんだよねぇ。
「ねえ聞いてよ ぼくはすてきなことをおもいついたんだ 時間とすいちょくにきみをわぎりにするのさ そうすりゃきみは動かない いちまいの絵になるのさ なにしろぼくのひとみはがくぶちなんだから すてきだろう」(風化粧)
「言おうと思っていることは、言葉になると同時に空中に飛び散ってしまい、不気味な形の汚点が翼を広げている天井のあたりで、とりとめもなくためらっているだけだった。」
「――あなたは本当に子供のようよ、隠れん坊していて忘れられた子供みたい、鬼はいったい誰なの?」
独特の語り口がたまらない。
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