2007-03-08

さんずいあそび / 別役実

さんずいあそび「我々の七〇パーセントが水なのだとすれば、それは交換可能な部分であり、つまり、私であり他人であることの七〇パーセントは、共有できてしかるべきものと言える。(・・・)こうした、水への感受性を通じての共有感覚が、かってはあったのであり、今日では失われつつあるということではないだろうか。」(水)

さんずいの付く漢字をテーマにしたエッセイ集。
別役実の感覚がちゃぷちゃぷいってます。(?)

「言ってみれば我々は「涯」に向かって限りなく近づくことができるものの、そこに到達することも見ることもできないのであり、何故ならば、それはそこに近づけば近づくほど、背後にまわりこんでしまう性格を持っているからである。」(涯)

2007-03-04

パンク侍、斬られて候 / 町田康

パンク侍、斬られて候時代小説、と銘打ってありますが、そんな堅苦しさはちっともないです。
愚痴る侍の口調が現代風にアレンジされていたり、会話に風刺がふんだんに盛り込まれていて面白い。

「つまり彼は自分が相手にとって彼だということが分からない、つまり自分にとって自分は僕だから相手も自分を僕だと思っているのだ。だから相手に感情や意思があるということがわからんのだよ。つまり自他の区別が付いていないということだな。要するにこれは幼児の態度であって、世の中全体を母親だと思っているのだ」

それにしても町田康のエンターテインメント魂はすばらしい。

「腹ふり党」をはじめとする冗談のようなアイデアがどんどんと現実として起こりそれらに翻弄される登場人物たちの生き様、斬られ様。

「僕はこの世界の前提を問いません。世界なんて関係ないんだ。たとえ虚妄の世界であろうと僕は生き延びる。」

2007-02-28

少年少女漂流記 / 古屋×乙一×兎丸

ムーたち「このまま話し合いもせずに、ただ助けを待つのかい?
僕たちはまだ、生きてるんだよ。」


少年少女の現実と妄想を軽い感じで描いた漫画。

「お菓子帝国・前編」の新聞の見出し "今川焼襲来" と "富士山[こし餡に]飲まれる!" というのには笑いました。

2007-01-09

ムーたち 1 / 榎本俊二

ムーたちいろいろな世界認識の方法。

「我を忘れている自分を 冷静な目で観察している もう一人の自分に 気がつく瞬間が誰にでも 必ず来るんだよ」

いじめてくん / 吉田戦車

いじめてくん思わず人の嗜虐性をくすぐってしまういじめてくんはいじめられると爆発するように開発された秘密兵器である。
いじめている人間の変態性とドラマがおもしろい。

「鉄の村松」はたったの6ページだけど最高の出来です。

2007-01-07

12歳の大人計画 / 松尾スズキ

12歳の大人計画小学生に「大人」について考えてもらう授業の単行本化。
「銀座の恋の物語」をみんなで歌ってるところ、テレビで見たかったなぁ。

「最終的に「大人になりたい」という生徒が増えていたのが、収穫だった。だって、大人には「なってしまう」のだから、少なくともなりたくなくてなってしまうのは、不幸じゃないか。」

2007-01-04

海の仙人 / 絲山秋子

海の仙人「ファンタジーか」
「いかにも、俺様はファンタジーだ」
「何しに来た」
「居候に来た、別に悪さはしない」


春の終わりにやって来た「ファンタジー」と共に孤独をくすぐる物語がはじまる。
やっぱり絲山秋子は会話がいいですねぇ。

「誰かと一緒に寝るの、久しぶり。すっごい安心する」
「寝るときは一緒でも眠りにおちるときは独りだぞ」
「うん、眠るときと死ぬときは独りなんだ・・・」

「地球が丸く見える方法を教えてあげようか」と片桐は言った。
「なんだ?」
「こうするんだよ」

2007-01-02

第三の役たたず / 松尾スズキ

第三の役たたずほんとうは優秀なのに「役立たず」みたいに扱われてしまっている「第三の役たたず」な人々へのインタビュー集。

インタビュー中に酒が入ってるせいもあり、鶴見済と天久聖一のフッ切れ方はすごい。
根本敬は相変わらず濃いし。
文庫化で町田康がカットされてるのが残念。

2006-12-24

KKKベストセラー / 中原昌也

KKKベストセラー逸脱しまくりです。
前半は「お話」めいた展開なのですが、途中から"作者"が暴走しだして怒りをぶちまけ強引に終わる。
"作者"というのも小説の一つのキャラクターですね。

「もっと自分の考えに懐疑的になるべきである。もっともっと直接的でない表現に向かうべきである。そして重要なのは匿名性だ。もう自分の名前なんて掲げるのは止めにしたい。名前などというものを大層に掲げたりするから、「自分こそが人の前に立って、何か発言する権利を持っているのだ」という錯覚に陥るのだ。」

「近代に於ける誠実な文章は「完全なる自己否定」でしかなし得ない、と僕は信じている。書き手が自己否定していない文章など、まったく読むに価しない。」

2006-12-21

クワイエットルームにようこそ / 松尾スズキ

クワイエットルームにようこそ気がついたら精神病院の隔離病棟であるクワイエットルームに閉じ込められていた"わたし"はどうなってしまうのか?

突然"わたし"に訪れた異常体験が読者の読書体験と重なり感情移入しやすいです。登場するキャラも個性的で非常に味があります。読みやすくて面白い本です。

(読んでたら卯月妙子を思い出した・・・)

「わたしはとにかく赤の他人の目の前で、シラフで裸で仁王立ちで、普通に地味な雑誌のライターだっていうのに、いわゆる「見世物」としておっぱいやら陰毛やら丸出しで、なのになぜだか恥ずかしくもなく、ましてやハイになってるわけでもなく、その昭和の匂いほの香る映画館の2間ばかりのステージ上で、ひたすら冷えて孤独で別に悲しかあないけど馬鹿みたいだった。」