2010-03-03

ハード・コア / 狩撫麻礼 いましろたかし

ハード・コア 上
何をやってもうまくいかないが、救いなんてないし、それでも生きている。
ハード・コア 下
日常のダメダメでコミカルな感じから、ダイナミックなストーリー展開へと面白く読める。

2010-02-21

ちいさなのんちゃん すくすくマーチ / 永野のりこ

ちいさなのんちゃん すくすくマーチ
なつかしいなぁ
面白いなぁ(T-T)

帯にリアルのんちゃんの写真がっ!

2010-02-10

麻布怪談 / 小林恭二

麻布怪談
はじまりは怪談だけどその謎が解かれるにつれて人情が深まり、ほんとうの謎が解けるとき物語は終わる。


「あたしね・・・」
 初はゆっくりと笑顔を作った。
「死ぬの」
「え」
「あたし、子供を産んだら死ぬの」
 初の笑顔から涙が零れる。

(・・・)

「教えてくれ」
「何を?」
「何もかもだ。おまえはなぜ俺の前に現れた。なぜ俺の子を産む。なぜ今になって去ろうとする」
 初は涙を拭い、新しい笑顔を作った。
「あなたのことが好きだからよ」
「そんなの答えになってない」
「なってるわ。あなたが好きだから、あなたの前に現れた。あなたが好きだから、あなたの子供を産む。あなたが好きだから、去らなければならない」

(・・・)

 善四郎は穴の底で、初のことばを懸命に拾い集めた。
「あたしは、生きていた頃のあたしの思いと、かつてあなたの妻だった人の思いの中に生きてるの。今ここにいるあたしは、ふたつの思いが仮にかたちをとったものにすぎない。子供ができればすべての思いは霧消する。そうなればあたしも霧消する」
 善四郎は集めたことばを理解しようとした。しかし何も理解できなかった。善四郎は、手にしたことばを投げ捨てた。

2010-01-29

整形前夜 / 穂村弘

整形前夜
穂村さんチャーミングで鋭い。

「願い通りの100パーセントは決して得られない。だが夢を汚してでも世界に触りにいけば、願わなかった120パーセントが転がり込んでくることもある。そんなおかしな世界の法則を感じてなんとかトンネルを抜けるまでに25年以上かかった。長い長い思春期。75まで生きるとしたら、生涯の3分の1が中学生だ。」

毎月新聞 / 佐藤雅彦

毎月新聞
簡単なところから入っていって、ちゃんと考えさせてくれるところが良いと思う。

「実は『基本的なことこそ、それがなぜ基本的で重要なのかは理解できにくい』のである。」

感性がすばらしいと思う。

「Sの死が取り返しがつかないことは、どうしようにも逆らえないことである。しかし、僕が取り返しようがないと感じたのは、そのことではない。それは、Sが当然どこかで生きていることを前提として、僕自身が生きてきたことである。別の言い方をすれば、僕はそのSの存在があるものとした"バランス"で生きていたのだ。知らずに過ごしてきてしまった長い時間こそ、僕にとって、もうひとつの取り返しのつかないことであったのだ。」

2010-01-28

エスケイプ/アブセント / 絲山秋子

エスケイプ/アブセント
いろいろな裏側を見知ってストンと落ちた現実のなにもかもが自分のものという自由

2010-01-08

東京怪童 2 / 望月ミネタロウ

半島
脳に障害(?)を持つ若者たちの苦悩や日常。

「ああ でも
この曖昧な世界のどこかに

きっと
それさえも全て
包容するような
美しい世界が
あるんじゃないのか」

モーダルな事象 / 奥泉光

半島
ミステリー形式でなかなか面白く読める。

「方々から頭が浮かび上がって、シンクロナイズドスイミングの選手たちのように一斉に動き出すから慌てた。見ると頭の一つは太宰のだ。隣のもじゃもじゃ頭は芥川。丸眼鏡のフランキー堺は花袋。あっちは独歩。こっちは紅葉。その他ぞろぞろ出て来て、やがて沼は有名無名取り混ぜた近代文学者の頭で一杯になる。泳ぐ日本近代文学者総覧だ。崩れかかり骸骨になりかかった頭たちがこちらを向いて、歯列の剥き出しになった口をぱくぱくさせるのは、何か訴えようとするものらしいが、声帯が失われているせいか声にならない。」

桑幸の若干ふざけて情けない感じが良い。

「そのとき桑幸は自分が何者であるか、少しだけ理解出来た気がした。つまり俺は、死の国に、死者として生まれた者である。であるにもかかわらず、俺は生きているのだ。俺は生きた死人であって、蚯蚓(ミミズ)の蠢動と変わらぬ活動しかなしえぬにしても、俺がとりあえず生きているのは間違いないのだ。いずれ世界が死に覆い尽くされるのだとしても、生きている以上、俺は蠢かないわけにはいかない。見苦しく動き回らないわけにはいかない。宇宙の音楽が完全無欠の和声を奏でるのであるなら、泥ナマズの俺は一個の騒音に他ならない。そうだ、宇宙のちっぽけな騒音として俺はあるのだ。」

2009-12-30

半島 / 松浦寿輝

半島
中年男にして感じる現実のいろいろ。

「こんなふうにボールで遊んでいる俺は、本当にボールで遊んでいるのではなく、ただ単に、ボールで遊んでいる俺自身を思い出しているだけなのではないだろうか。もしそうならば、この俺はこのボール遊びの瞬間の中にいるのでは実はなく、この瞬間を思い出しつつあるもう一人の俺の記憶の蘇りの中にいるのであるならば、その思い出している方の俺、本当の俺は、いったいどこにいるのだろう。どんな瞬間の中にいるのだろう。」

本当はちがうんだ日記 / 穂村弘

本当はちがうんだ日記
穂村さんの考察集。
本当はちがうらしい。


 それにしても、私のエスプレッソがこんなに苦いのは何故なのだろう。果実の香りとキャラメルの味わいの飲み物が、地獄の汁に感じられるのは何故か。それは、おそらく、私自身がまだエスプレッソに釣り合うほどの素敵レベルに達していないからだ。私の素敵レベルは低い。容姿が平凡な上に、自意識が強すぎて身のこなしがぎくしゃくしている。声も変らしい。すぐ近くで喋っているのに、なんだか遠くから聞こえてくるみたい、とよく云われる。無意味な忍法のようだ。
 だが、と私は思う。本当は何もかもちがうのである。私は忍者ではない。私しか知らないことだが、実は、今ここにいる私は「私のリハーサル」なのである。これはまだ本番ではない。素敵レベルが低いのはそのためなのだ。芋虫が蝶に変わるように、或る日、私は本当の私になる。そのとき、私の手足は滑らかに動き、声はちゃんと近くから聞こえ、そして、私はエスプレッソの本当の風味を知るだろう。それは芳醇な果実とキャラメルの味わいである。